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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)4736号・昭42年(わ)4622号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

第一、被告人窪田秀忠及び同瀬戸邦彦の両名は、昭和四二年一二月一三日午前四時三〇分頃、大阪市西成区西入船町二三番地先路上を、被告人長谷川豊他氏名不詳者二名と共に歩行中、たまたま同所を通行中の酒井多郎(当五八年)を見掛けるや、氏名不詳者二名と暗黙のうちに同人より金品を強取しようとする意思を相通じて、同人を取り囲み、交々同人の顔面、頭部等を殴打し、路上に仰向けに突き倒し、その身体を足蹴りにする等の暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、同人から現金約一一、〇〇〇円および腕時計二個、指環一個(時価計六、〇〇〇円相当)を強取したが、その際右暴行により同人に対し、加療約七日間を要する後頭部、右眼窩部各打撲傷等の傷害を負わせ、

第二、被告人長谷川豊は、

(一) 第一記載の日時頃に、第一記載の場所付近において、被告人瀬戸邦彦より、同人が第一記載の犯行により強取した賍物であることを知りながら、腕時計一個(時価二、五〇〇円相当)の保管方を依頼されてこれを受取り、もつて賍物を寄蔵し、

(二) 同日時頃、同区海道町海道公園において、被告人窪田秀忠より、同人が第一記載の犯行により強取した賍物であることを知りながら現金一、〇〇〇円の交付を受け、もつて賍物を収受し

たものである。

(被告人長谷川豊について強盗傷人の訴因を認定せず、賍物寄蔵、同収受の訴因を認定した理由)

(一) 本件強盗傷人の犯行に至る経緯、犯行の態様は、前示認定のとおりであつて、いわゆる現場共謀に基づく犯行と認められる。事前の共謀を認めるに足りる証拠はない。即ち、被告人長谷川、同窪田、同瀬戸が他に氏名不詳者二名と一団となつて、大阪市西成区西入船町二三番地先路上を通行中、たまたま同所を通行中の被害者酒井と出合つたのが契機となつて、被告人窪田、同瀬戸、その他氏名不詳者二名が相互に黙示の意思連絡の下に、被害者を取り囲み、前示の犯行に及んだものである。

そこで被告人長谷川が右の現場共謀に加わつたか否か、実行々為に加担したか否かが問題である。

(二) 先ず実行々為の加担の点について検討する。

例えば被害者酒井多郎の司法巡査に対する昭和四二年一二月二六日付供述調書には「被告人長谷川が被害者の左手をねじ上げ、左手首の腕時計と左手小指の金指環を奪つた。」旨、同人の検察官に対する供述調書には「被害者を襲つた犯人は五人で、被告人長谷川には見覚えがあり、五人の犯人の中に確かに居た」旨、同人の当公判廷における証言には「五人組の犯人に襲われたが、被告人長谷川は男前であるので見覚えており、同被告人が自分の後方に廻り、右腕から腕時計を奪つた。」旨の各供述がある。しかし、そもそも本件犯行時である、一二月一三日午前四時三〇分頃という、まだ夜の明け切らない街灯はあつても薄暗い路上で、一面識もない五人組の犯人に突然取り囲まれ、いきなり頭を殴られ路上に転倒させられ、交々殴る蹴るの暴行を加えられ、暫らくは茫然としていたという(酒井の当公判廷における証言による。)被害者の、犯人の人数、特定犯人の特徴、個別的行為に関する認識、記憶が、どの程度の信憑性があるかは、慎重な検討を要するところである。現に酒井が本件犯行当日作成した被害届及び同人の司法警察員に対する同日付供述調書(五枚分)には、犯人の人数、各犯人の特徴、各犯人の個別行為に関する供述が見られるが、いずれもすこぶる概括的であつて、犯人の人数を必らずしも五人に限定し、被告人長谷川らしい特定犯人の特徴、あるいは個別的行為を、個別的に指し示すものではない。また酒井の当公判廷における証言も、前記のように「被告人長谷川は男前であるから覚えており、自分の左腕から腕時計を奪つた。」旨断定するかと思えば、その直後には「頭を殴られて茫然としており、各犯人やその各別の行為について判然と記憶してない。」旨供述を変えており、同人の司法巡査に対する昭和四二年一二月二六日付供述調書中での「被告人長谷川は被害者の左手をねじ上げ、左手首の腕時計と左手小指の金指環を奪つた。」旨の供述とは、奪つた腕時計の左右、金指環を奪つたか否かの点で、全く相反する供述をするなど、その供述自体前後一貫せずあいまいで、認識、記憶の不明確さを暴露しているのみならず、被告人三名の当公判廷における各供述、検察官、司法警察職員に対する各供述調書中の供述とも矛盾する。(これらによると、被告人長谷川以外の被告人瀬戸らが、被害者の左右の腕から腕時計及び金指環を奪つたこととして述べられている。)このようにこの点に関する酒井の認識、記憶の不明確さは明らかであるから、同人の検察官、司法警察職員に対する各供述調書中の供述も、それだけを見ると整然と明確に供述されているからといつて、これを採る訳にはゆかない。以上のとおり酒井の前記各供述はいずれも信憑性が乏しい。

被告人窪田の司法警察員に対する昭和四二年一二月一六日付供述調書には「被告人長谷川、同瀬戸、その他の連中は、男を取り囲み、殴つたり蹴つたりの乱暴をし、男を地面に倒してしまつた。」旨、同被告人の同月二〇日付司法警察員に対する供述調書には「皆が殴つたり蹴つたりしだしたので、誰れがどのようにしていたかははつきり云えないが、被告人長谷川、同瀬戸、名前を知らない男二人共に手出ししていたことは間違いない。」旨、同被告人の検察官に対する供述調書には「私達のうち被害者に手を出さなかつた者は一人もおらず、勿論被告人長谷川、同瀬戸も殴つたり蹴つたりした後持物をさぐり思い思いのものを奪い取つていた。」旨の各供述がある。しかし被告人窪田は右各供述中で、各共犯者の行動について概括的にのみ述べていることや、「誰れがどのような行為をしたかははつきりしたことはいえない。」(司法警察員に対する昭和四二年一二月二〇日付供述調書)と述べていることから容易に窺えるように、各共犯者の行動については概括的な認識に止まる。このような場合、特に被告人長谷川が手を出したか否かに関して、被告人窪田の右各供述の信憑性には、限度があるという他ない。なお同被告人が当公判廷では右供述を翻していることや、被告人瀬戸がその当公判廷における供述、司法警察職員に対する各供述調書中で、「被告人長谷川は被害者の側を通り過ぎて待つていた。実行々為をしていない。」旨述べていることと比照してみても、被告人窪田の被告人長谷川に関する右各供述の信憑性を高く評価し得ない。

被告人長谷川は、昭和四二年一二月一八日付司法警察員に対する同月二〇日付検察官に対する各弁解録取書、同月二〇日付裁判官に対する勾留尋問調書において、いずれも「犯罪事実はその通り間違いありません。」と自白しているが、これらの自白がどの程度の信憑性を持つかは、同被告人の司法警察員に対する同月一九日付の供述調書中の供述と討比してみると疑わしくなる。というのは、同被告人は同調書中でも「事実は大体間違いありません。」と一応自白しているのであるが、後に詳しく犯行の状況を述べたところでは、共謀の点も実行々為の点も認めてはおらず、最後に「しかし私も分前を貰つたので同罪と思います。」と敷衍しているのである。してみると右供述調書中の一応の自白も同供述調書の前日付の司法警察員に対する弁解録取書、翌日付の検察官に対する弁解録取書及び裁判官に対する勾留尋問調書中の各自白も、自白された日時が接着し、自白の形式が同じであるだけに、「分前を貰つたので同罪と思つています。」という趣旨で「事実はその通り間違いありません」と自白したのではないかと疑い得る余地がある。被告人長谷川はその後作成された同月二一日付、同月二六日付司法警察員に対する各供述調書において、共謀、実行々為のいずれも認めておらず、当公判廷でも一貫して否認している。

被告人長谷川の検察官に対する供述調書には「私は後からついて来ていた連中が、相手の男を襲い無理矢理持物を奪い取ろうとしていることが判り、すぐその現場に引き返し、相手の男を他の連中と共に取り囲んで協力した。」旨の供述があるが、同被告人の司法警察員に対する昭和四二年一二月一九日付、同月二一日付各供述調書では「現場を行き過ぎてから気付いて振り返つて見た。」程度の趣旨の供述であつたものが、どのような経過、どのような理由で右のように供述するに至つたが納得するに足る説明はなく、同被告人が当公判廷で述べているように、検察官が同被告人の言分を受けつけず勝手に作文した疑も、全くは払拭し切れず、被告人瀬戸の当公判廷における供述、司法警察員に対する各供述調書中の「被告人長谷川は犯行現場を行き過ぎて待つていた。実行々為に加担していない。」旨の供述とも矛盾するので、両者を比照してみて、他を捨てて特に被告人長谷川の検察官に対する右供述を措信すべき理由がない。

以上のとおり実行々為の加担については、一応これに副う証拠もあるが、仔細に検討してみるとその信憑性に乏しく、これらを綜合してみてもこれを認めるに足りない。

(三) 次に被告人長谷川が現場共謀に加わつたか否かの点を検討する。

被告人長谷川の自白に信憑性が乏しいことは前示のとおりである。

そこで他の共犯者らは、被告人長谷川との共謀についてどのように認識していたかであるが、被告人瀬戸は被告人長谷川を一応「共犯者」という言葉で述べている(司法巡査に対する昭和四二年一二月二五日付、司法警察員に対する同月二五日付各供述調書)、しかしいずれも共謀の内容には触れておらず、むしろその供述の実質は、「被告人長谷川は四、五米先で私らの来るのを待つていた。」(司法巡査に対する同月二五日付供述調書)と共謀について否定的であり、同被告人の当公判廷における供述も同様否定している。被告人窪田はその検察官、司法警察職員に対する各供述調書において、被告人長谷川との意思連絡、共同加功を認めている。しかし当公判廷ではこれらを否定しているし、右各供述調書中でも、共謀の成立した事情、方法、共謀の内容については具体的に触れるところがない。同被告人が被告人長谷川と共に犯罪を実行する意思であつたとしても、相互的な意思連絡が認められなくては共謀は成立しない理であるのに、右各供述調書中の供述は被告人長谷川も共に実行々為をしたというだけで、内容に乏しくこの点について心証を得しめる程のものではない。

その他、間接証拠をも綜合して共謀を認定し得るか否かであるが、本件関係各証拠を綜合すると、被告人長谷川の浮浪者的性行、経歴、本件と類似する前科、被告人窪田、同瀬戸の同様の性行、経歴、前科、同被告人及び氏名不詳者二名の間柄、本件現場付近の環境的状況、昭和四二年一二月一二日午後一二時頃、被告人らが大阪市西成区の通称三角公園内の焚火をしているところで出会つて、被告人長谷川の誘いで付近の大和屋などで飲酒し、同月一三日午前四時三〇分頃、本件現場を一団となつて通りかかつた犯行に至る経緯、被告人長谷川は一応被害者の側を通り過ぎたが、被告人窪田、同瀬戸らの犯行中、現場に極く近い場所にいてこれを目撃しており、被告人窪田、同瀬戸は強奪した金品を現場に近い所で早速被告人長谷川に手渡し、これを五人で分配して、被告人長谷川も等分の分配金を得ていること、などが認められ、これらを彼此綜合してみると、被告人長谷川は実行々為をしていないまでも、犯行前後被告人窪田、同瀬戸らと一団となつて共同した行動をしているから、同被告人の共謀加入について相当な嫌疑は認められる。しかし共同加功の事実の認められない共謀共同正犯の共謀は、互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行にうつすことを内容とし、相当高度の相互性、一体性が必要であり、共同意思主体として観念せられる程度のものであることを要すると解すべきところ、右諸事実によつて、被告人長谷川が被告人窪田らの犯行を目撃してこれを容認し、場合によつては協力も拒まない程度の意思を抱いたであろうことは推認できても、自から又は他人の行為によつて実行する意思を抱き、それが相互的に通じ合い、一体的なものにまで高まつたか否かについては、本件が数人で突発的に行われた短時間の犯行であることから、疑問が残る。

(四) その他本件審理に顕われた全証拠を綜合してみても、被告人長谷川の強盗致傷の訴因については有罪の確信を得るに至らなかつたが、前示証拠の標目欄記載の各証拠によれば、同被告人の賍物寄蔵、同収受の予備的訴因については、これを認定することができ、両訴因の間には公訴事実の同一性があるので、同被告人を右予備的訴因について有罪とした。(戸田勝 上野智 井垣康弘)

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